大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

横浜地方裁判所 平成4年(行ウ)23号 判決

原告

松下弘(X1)

犬飼彦左エ門(X2)

若尾肇(X3)

高橋豊(X4)

飯高加津子(X5)

柴田時子(X6)

右六名訴訟代理人弁護士

佐伯剛

小野毅

小賀坂徹

被告

(葉山町長) 田中富(Y)

右訴訟代理人弁護士

沢藤達夫

事実及び理由

第三 争点に対する判断

一  本件審議会の委員が空路旅行により本件海外視察をしたことについての条例上の根拠について

本件審議会の委員が空路旅行により本件海外視察をし、葉山町が、これについて、審議会委員については二〇一号条例及び同施行規則、町職員については二〇五号条例、同規則及び同取扱規程に基づき、合計八七八万三七〇〇円を支出したことは、当事者間において争いがない。

そこで、まず、本件審議会の委員が空路旅行により本件海外視察をなし得るかを検討する。

本件審議会は、地方自治法一三八条の四第三項、二〇二条の三第一項に基づく審議会条例により設置された、葉山町の執行機関たる町長の付属機関であり、町長の諮問に応じて、国内、国際間の姉妹都市、友好都市等の提携、交流親善に関する必要な調査及び審議を行うことを目的とすることは当事者間において争いがない。

ところで、地方自治法によれば、普通地方公共団体の長は、当該普通地方公共団体の執行機関として、その機能を適切に果たすために必要な限度で、広範な機能を有しているから(地方自治法一四九条)、合理的な必要性があるときには、その裁量により、当該普通公共団体の職員を海外に派遣することもでき、この点は非常勤職員についても同様と解されるから、町長である被告は、条例等によりそれが制限されていない限り、必要がある場合には、葉山町の非常勤特別職員である本件審議会委員を海外に派遣することもできると解される。

〔証拠略〕によれば、二〇五号条例は、町職員の公務のための旅行について、内国旅行のほか外国旅行(二条)があり、普通旅費の種類として、鉄道賃、船賃及び車賃のほか、航空賃(六条)がある旨を、それぞれ規定し、二〇〇号条例においても、議員が公務のために旅行したときは、その旅行について費用弁償として旅費を支給するとし、その額については内国旅行と外国旅行とは区別したうえ(四条一、二項・別表第一・第二)、議員に支給する旅費については、二〇五号条例の規定する一般職の六級の職員に支給する旅費の例によると規定(四条三項)しているのに対し、二〇一号条例は、非常勤特別職が職務のために旅行する場合には、鉄道旅行には鉄道賃を、水路旅行には船賃を、その他の旅行は陸路旅行としてキロ数に応じた車賃を支給する旨を規定(九条)するが、外国旅行及び航空賃については規定していないことが認められる。

これらの各条例は、右各証拠によれば、いずれも昭和三一年一〇月六日に制定されたものであると認められるところ、二〇〇号条例及び二〇五号条例が、外国旅行及び航空賃について規定しているということは、議員及び職員は公務のために外国旅行をすることができ、その際、空路旅行によることができることを定めているといえるが、二〇一号条例が空路旅行について規定していないことからすると、非常勤特別職が職務により旅行する場合には、空路旅行によることを認めない趣旨であるかのようでもある。ただし、仮にこのように解したとしても、非常勤特別職が水路旅行できる旨の規定がある以上、水路旅行による海外視察ということも考えられないではないから、空路旅行について規定がないということで、直ちに審議会委員が海外視察をなし得ないということにはならないと解される。

ところで、審議会条例〔証拠略〕によれば、本件審議会は、町長の諮問に応じて国内及び国際間の姉妹都市、友好都市等の提携・交流親善に関する調査、審議を行うために設置されたのであるから(二条)、それに必要な場合には、国内外の視察等の実施が当然予想され、したがって、審議会委員は審議に必要な場合、国内はむろん海外の視察をすることもできると解される。

そこで、再度、二〇一号条例の解釈に戻ると、確かに、原告らが主張するように、二〇〇号条例、二〇一号条例、二〇五号条例の各規定の定め方、体裁、前二者による二〇五号条例の準用の仕方などを検討すると、二〇一号条例においては、八条において、車賃については実費支給と定めながら、鉄道賃及び船賃について具体的に定めていないのであるから、一一条による二〇五号条例の準用は、支給については規定しているが、その額について具体的に定めていない鉄道賃及び船賃について、一般職の職員と同等の支給(六級)をすることのみを定めたものと解されなくはない。

また、二〇一号条例においては、非常勤特別職について陸路旅行のほか、鉄道旅行及び水路旅行だけを規定しているのであるから、条例制定当時としては、右の経路以外の旅行を想定していなかったのではないかとも考えられる。しかし、その規定内容からすると、空路旅行(海外旅行)について、その存在を認識しながら、これによることを全く禁止しているものとは解されず、また、制定後の交通事情の変化、発達をも考慮すれば、陸路旅行、鉄道旅行及び水路旅行によるよりも、経済的かつ時間的に効率的な経路がある場合、すなわち、空路旅行が可能な場合やその必要がある場合に、これによることを禁じてはいないというべきである。そして、二〇一号条例は、前記のように、一一条において二〇五号条例を準用し、費用弁償については、一般職の六級の職員に支給する旅費の例によるとしているのであり、右の者については、空路旅行(海外旅行)が認められ、その額が定められているのであるから、結局、現在では、右の点に、非常勤の特別職の空路による海外旅行の費用弁償の根拠があるものと解するのが合理的である。

そして、〔証拠略〕によれば、葉山町においては、本件海外視察における空路旅行の費用は、一般職六級に支給する費用に準じて支給していると認められるから、本件海外視察の空路旅行の費用等は、条例に基づくものであるということになる。したがって、本件海外視察が条例上の根拠のないものであるとの原告の主張は、理由がない。

二  本件海外視察の必要性

本件審議会の設置、被告からの諮問とそれに対する答申、そして本件海外視察に至る経緯等、被告が、本件審議会の答申を受けて、平成四年三月の葉山町議会において、審議委員全員及び被告を含む町職員四名の合計一六名をグレネルグ市に視察のため派遣することを提案し、その旨の議決を得たことは前記争いのない事実記載のとおりである。

そうすると、本件審議会において、葉山町の姉妹都市として、グレネルグ市を対象とし、平成三年九月九日開催の第二回会議において、グレネルグ市から送付されたパンフレット、ニュース等に基づくグレネルグ市のあらましについて検討し、同年一〇月一七日開催の第三回会議において、グレネルグ市の市役所から借り受けた観光案内目的のビデオテープを見たり、その他の資料を検討したうえ、グレネルグ市を姉妹都市の適任地と判断するに至ったこと、グレネルグ市の視察を決めた同年一一月一八日開催の第四回会議において、町長である被告から、海外出張の際に、公式訪問したグレネルグ市において同市の市長と面談し、同市長は、葉山町との姉妹都市関係について前向きである旨の報告がされるなどしたことになる。

原告は、こうした経緯に照らせば、本件審議会委員の全員が本件海外視察をしなくとも、グレネルグ市の状況及び姉妹都市についての同市の意向等を十分把握することができると主張する。しかし、姉妹都市制度が、親善と国際交流を目的とするもので、相手方に対する理解と相互の意思意向を十分確認することが必要であることや本件審議会ての性質等を考えれば、その委員が提携先の状況及び姉妹都市についての意向等の確認について、直接、相手方市に赴いて協議検討することは、十分な理由があるものと認められる。

現に、〔証拠略〕によれば、本件海外視察の結果、グレネルグ市側との数回の協議が行われ、同市の議会において葉山町との交流のための準備委員会を設けることが議決されるなど、その具体的な意向が確認され、その後、姉妹都市としての提携を念頭において、グレネルグ市側の代表団一五名が葉山町を訪問するなど、人的交流等が行われていることが認められる。

そして、前記のとおり、葉山町長の被告が、姉妹都市提携のため、非常勤の特別職員等を海外に派遣することについては、広く裁量権を有しているものというべきであることを合わせ考えれば、本件海外視察が不必要であって、被告がこれについて有している裁量権を逸脱して違法な海外視察を実施したということはできない。

また、原告は、本件海外視察が慰労のための観光旅行であるとし、その理由として、本件海外視察においては、八日間の日程中、グレネルグ市にはわずか二日間しか滞在しておらず、往復の二日間を除く四日間は、メルボルンやシドニーにおいて観光をしていると主張し、これらの日程については前記のとおり争いがない。しかし、こうした事実から、直ちに本件海外視察全体が、調査研究に名を借りた審議会委員の慰労のための観光旅行であると認めることはできないばかりか、〔証拠略〕に照らしても、外国の都市と姉妹都市の合意をする際、当該都市のみならず、その周辺都市等を視察することは、当該姉妹都市の理解に有益なところがあると考えられるから、グレネルグ市以外の訪問が全く不必要であったとまでは断定できず、右主張も採用できない。

そうすると、本件海外視察は必要性がなかったとはいえない。

したがって、本件海外視察が不必要なものであり、慰労出張であった、とする原告らの主張は、いずれも採用できない。

三  以上によれば、本件海外視察のための費用等の支出の違法性は認められないから、その余の点を判断するまでもなく、右主張は採用の限りでない。

右によれば原告らの請求は理由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 浅野正樹 裁判官 秋武憲一 小河原寧)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!